2026.3.25
製鉄部品メーカーが医療業界へ挑戦!?
腹腔鏡手術の常識を覆す、
硬性内視鏡洗浄装置「OPLYS」はこうして生まれた

大分県大分市の製鉄・土木部品メーカー「株式会社トライテック」が新たに生み出した製品が、今まさに世界へ飛び出そうとしています。
その名は、硬性内視鏡洗浄装置「OPLYS(オプリス)」。
「OPLYS」は、腹腔鏡手術の現場で何度も発生する「体液で汚れた内視鏡を体内から取り出し洗浄する」というストレスのかかる作業を劇的に簡単にした内視鏡カバーです。腹腔鏡手術にかかわる医療スタッフたちから要望があったものの、さまざまなハードルがあり実用化には至っていなかったというこの製品。開発に挑んだのは、これまで医療業界とは関わりのなかった株式会社トライテックです。
そもそもなぜ、製鉄・土木関連部品メーカーが医療機器の開発に乗り出したのでしょうか。また、製品化にはどのような困難が待ち受けていたのでしょうか。今回は代表取締役の竹﨑博氏をお迎えし、その誕生秘話に迫ります。
偶然の出会いから医療機器の開発へ。
現場の「困った」を見過ごせなかった
--製鉄や土木関連部品の製造会社である「株式会社トライテック」が、全く異なる分野である医療機器の開発に挑むことになったきっかけは何だったのでしょうか。
2017年頃に、長崎大学の医工連携コーディネーターの方と知り合ったことが、「OPLYS」開発のきっかけですね。その方のお誘いで、長崎大学医学部の教授の方々が開催した医療現場におけるニーズの発表会に参加しました。そこで、命の現場で必要とされているにもかかわらず、「未だに製品化されていないものがこんなにも多いのか」と衝撃を受けたのです。さまざまなニーズを聞く中で、「腹腔鏡手術で使用する内視鏡に付着する汚れをすぐに洗浄することができ、なおかつ体内から取り出す必要がないような医療機器があったら便利だ」と聞いたときにピンと来ました。これは私たちでつくることができるかもしれないと直感しましたね。

そこで、発表会後に医工連携コーディネーターの方から詳しく話を聞いたところ、内視鏡洗浄カバーの需要は以前からあり、さまざまな会社が挑戦していたそうです。しかし、人体に影響のない材料を使いながら製造することの難しさや、洗浄力を高めるために必要な技術が高い壁となっており、どこも市場参入に至っていなかったのです。
さらにヒアリングを進めると、内視鏡洗浄の作業は1回の手術で20〜30回ほど発生するとのこと。その負担が、執刀医や看護師、手術にかかわるあらゆるセクションの医療スタッフにとって、非常に大きなストレスを与えていることが分かりました。
長崎大学のニーズ発表会に参加したのは少しの興味からでしたが、医療現場の「困った」という声を聞いたからには、そのままにしておくわけにはいきません。株式会社トライテックは皆さまの「困った」を解決する会社です。まだ誰も実現できていないことであれば、私たちが一番にやってみようという気持ちに突き動かされました。そうして、これまで全く経験のなかった医療機器の製造に乗り出すことを決めたのです。
プラスチックを加工できる業者が見つからない…。
諦めかけたそのときに浮かんだアイディア
--これまで経験のない分野の製品をつくるということで、困難も多かったのではないかと想像します。「OPLYS」開発にあたってどのようなご苦労があったのでしょうか。
開発にあたっては本当に困難の連続でした。2017年に長崎大学の発表会に参加したことを考えると、市場に送り出すまでに7年の期間を費やしています。内視鏡洗浄カバーの素材は、耐久性や衛生面、デザインの自由度の点からプラスチックが採用されているものの、私たちはそもそもプラスチックを扱ったことがありませんでした。
「これならできる!」という気持ちが先行してスタートしたプロジェクトだったので、最初の頃はまわりにも相談せず私ひとりでプラスチックの勉強から始めました。形状についてある程度アイディアがまとまり、「あとは医療機器の加工が得意な会社を見つけるだけだ」と意気込んだものの、今度は特殊な形状ゆえに実現可能な会社が見つからず。どうしたものかと途方に暮れていたときに、3Dプリンターでつくるというアイディアが浮かんだのです。実際に試作してみたら、これが大正解でした。そこからは医療機器の加工会社と連携しながら、3Dプリンターを導入して、「OPLYS」製造のための自社工場を新たに建設し、自社内でつくっていくことを決めました。

設計図ができて、3Dプリンターも導入。目の前の課題をひとつずつクリアし、あとは量産するだけ…と思いきや、更なる壁が立ちはだかります。内視鏡洗浄カバーは直接体内に入るものなので、当然人体に影響のないプラスチックでつくらなければなりません。しかし、社内に医療機器の開発製造に携わった経験や知見のある社員はひとりもいませんでした。開発に必要な素材の選定に奔走したり、3Dプリンターから設計図通りに出力したはずの試作品にも調整が必要になったり…。生物学的安全性や電気安全性の試験など、社内で前例のない業務がさまざま発生しました。それにもかかわらず粘り強く開発に取り組んでくれた社員たちには感謝しかありません。
正直なところ、最初から医療機器開発の大変さを分かっていたら、参入を諦めていたかもしれません。実際に、私たちのように異業種から医療機器の開発に挑戦した地元の企業が次々に撤退していったという話も聞きました。それでも私たちが諦めなかったのは、ニーズ発表会で医療現場の「困った」という声を直接聞いたからです。これまでも製鉄や土木の分野でお客様のニーズに応えてきたトライテックの技術力と社員たちのやり遂げるパワーを信じてきたからこそ、何度壁が立ちはだかっても諦めずに開発を進めて来られました。
大分から世界へ。 硬性内視鏡洗浄装置「OPLYS」が、
腹腔鏡手術の現場に革命をもたらす未来
--次々に立ちはだかる高い壁を乗り越えた結果、硬性内視鏡洗浄カバー「OPLYS」が誕生したのですね。いよいよ「OPLYS」を世に送り出すことになりますが、今後のビジョンを教えてください。
私は「OPLYS」を内視鏡に取り付けることで、腹腔鏡手術の常識が変わると確信しています。「OPLYS」により、従来の腹腔鏡手術では1度の手術の中で平均して20~30回ほど行われていた「汚れた内視鏡を体内から取り出す→洗う→手術をすべき箇所に的確に戻す」という工程が劇的に簡単になるのです。内視鏡が汚れて視界が悪くなってもその場でフットスイッチを踏めば、瞬時に鮮明な視界を取り戻すことができます。
執刀医にとって、常に視界が良好であることと内視鏡洗浄によるタイムロスが少ないことは、手術に集中するための重要な要素です。加えて、助手は内視鏡の入れ替えがない分、執刀医のサポートに専念できますし、取り付けも簡単な使い捨てタイプなので手術で使う器具を管理する手間も少なくできます。なにより、腹腔鏡手術の環境をより良くすることは、患者さんの負担軽減につながるのです。

ドイツで開催された医療の展示会でデモンストレーションを行ったところ、ご覧になった先生方から「素晴らしい、革命的だ」とのお声をいただきました。日本の医療業界のみならず、世界の腹腔鏡手術の現場で「OPLYS」が採用されるように、この利便性をどんどん発信していきたいですね。
また、開発途中にコロナ禍があったことで、「医療従事者の方々へ貢献したい」という思いもより一層高まりました。私たちの専門分野は医療器具ではありませんでしたが、「医療業界の未来を考えるのは、医療業界の方だけである必要はない」と、私は考えています。私たちが異業種から医療業界へ挑戦することで、技術力のある日本の中小企業が次々と世界へ挑戦するきっかけとなったら、非常に嬉しく思います。
全く異なる業界から医療の現場に挑む株式会社トライテックは、経済産業省が認定した「地域未来牽引企業」でもあります。
また、大分県から世界を目指す、「新しいかたちのリーダー」として地域貢献にも力を入れています。
腹腔鏡手術の常識が変わる未来を熱心に語ってくださる竹崎社長を前に、「OPLYS」が世界で活躍する日が目前に迫ってきているのだと確かに感じました。
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